。」といいながら、腰《こし》をのばして札《ふだ》を読《よ》みはじめました。読《よ》んでしまうと、「なアるほど、ふふウん、なアるほど。」と、ひどく感心《かんしん》しました。そして、懐《ふところ》の中《なか》をさぐりだしたので、これは喜捨《きしゃ》してくれるなと思《おも》っていると、とり出《だ》したのは古《ふる》くさい莨入《たばこい》れでした。お爺《じい》さんは椿《つばき》の根元《ねもと》でいっぷくすって行《い》ってしまいました。
海蔵《かいぞう》さんは起《お》きあがって、椿《つばき》の木《き》の方《ほう》へすべりおりました。
箱《はこ》を手《て》にとって、ふってみました。何《なん》の手《て》ごたえもないのでした。
がっかりして海蔵《かいぞう》さんは、ふうッと、といきをもらしました。
「けっきょく、ひとは頼《たよ》りにならんとわかった。いよいよこうなったら、おれひとりの力《ちから》でやりとげるのだ。」
といいながら、海蔵《かいぞう》さんは、しんたのむね[#「しんたのむね」に傍点]をのぼって行《い》きました。
四
次《つぎ》の日《ひ》、大野《おおの》の町《まち》へ客《きゃく》
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