》のしようを見《み》ていました。
やがて半田《はんだ》の町《まち》の方《ほう》からお婆《ばあ》さんがひとり、乳母車《うばぐるま》を押《お》してきました。花《はな》を売《う》って帰《かえ》るところでしょう。お婆《ばあ》さんは箱《はこ》に目《め》をとめて、しばらく札《ふだ》をながめていました。しかし、お婆《ばあ》さんは字《じ》を読《よ》んだのではなかったのです。なぜなら、こんなひとりごとをいいました。
「地蔵《じぞう》さんも何《なに》もないのに、なんでこんなとこに賽銭箱《さいせんばこ》があるのじゃろ。」そしてお婆《ばあ》さんは行《い》ってしまいました。
海蔵《かいぞう》さんは、右手《みぎて》にのせていたあごを、左手《ひだりて》にのせかえました。
こんどは村《むら》の方《ほう》から、しりはしょりした、がにまたのお爺《じい》さんがやって来《き》ました。「庄平《しょうへい》さんのじいさんだ。あの爺《じい》さんは昔《むかし》の人間《にんげん》でも、字《じ》が読《よ》めるはずだ。」と、海蔵《かいぞう》さんはつぶやきました。
お爺《じい》さんは箱《はこ》に眼《め》をとめました。そして「なになに
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