じぶんだけのためだということがよくわかったのです。
ひとりで夜《よ》みちを歩《ある》きながら、海蔵《かいぞう》さんは思《おも》いました。――こりゃ、ひとにたよっていちゃだめだ、じぶんの力《ちから》でしなけりゃ、と。
三
旅《たび》の人《ひと》や、町《まち》へゆく人《ひと》は、しんたのむね[#「しんたのむね」に傍点]の下《した》の椿《つばき》の木《き》に、賽銭箱《さいせんばこ》のようなものが吊《つ》るされてあるのを見《み》ました。それには札《ふだ》がついていて、こう書《か》いてありました。
「ここに井戸《いど》を掘《ほ》って旅《たび》の人《ひと》にのんでもらおうと思《おも》います。志《こころざし》のある方《かた》は一|銭《せん》でも五|厘《りん》でも喜捨《きしゃ》して下《くだ》さい。」
これは海蔵《かいぞう》さんのしわざでありました。それがしょうこに、それから五、六|日《にち》のち、海蔵《かいぞう》さんは、椿《つばき》の木《き》に向《む》かいあった崖《がけ》の上《うえ》にはらばいになって、えにしだの下《した》から首《くび》ったまだけ出《だ》し、人々《ひとびと》の喜捨《きしゃ
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