した。
それでも利助《りすけ》さんは、岩《いわ》のように黙《だま》っていました。どうやら、こんな話《はなし》は利助《りすけ》さんには面白《おもしろ》くなさそうでした。
「三十|円《えん》で、できるげながのオ。」
と、また海蔵《かいぞう》さんがいいました。
「その三十|円《えん》をどうしておれが出《だ》すのかエ。おれだけがその水《みず》をのむなら話《はなし》がわかるが、ほかのもんもみんなのむ井戸《いど》に、どうしておれが金《かね》を出《だ》すのか、そこがおれにはよくのみこめんがのオ。」
と、やがて利助《りすけ》さんはいいました。
海蔵《かいぞう》さんは、人々《ひとびと》のためだということを、いろいろと説《と》きましたが、どうしても利助《りすけ》さんには「のみこめ」ませんでした。しまいには利助《りすけ》さんは、もうこんな話《はなし》はいやだというように、
「おかか、めしのしたくしろよ。おれ、腹《はら》がへっとるで。」
と、家《いえ》の中《なか》へむかってどなりました。
海蔵《かいぞう》さんは腰《こし》をあげました。利助《りすけ》さんが、夜《よる》おそくまでせっせと働《はたら》くのは、
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