、海蔵《かいぞう》さんがもちかけました。
「そりゃ、たすかるのオ。」
と、利助《りすけ》さんがうけました。
「牛《うし》が椿《つばき》の葉《は》をくっちまうまで知《し》らんどったのは、清水《しみず》が道《みち》から遠《とお》すぎるからだのオ。」
「そりゃ、そうだのオ。」
「三十|円《えん》ありゃ、あそこに井戸《いど》がひとつ掘《ほ》れるだがのオ。」
「ほオ、三十|円《えん》のオ。」
「ああ、三十|円《えん》ありゃええだげな。」
「三十|円《えん》ありゃのオ。」
 こんなふうにいっていても、いっこう利助《りすけ》さんが、こちらの心《こころ》をくみとってくれないので、海蔵《かいぞう》さんは、はっきりいってみました。
「それだけ、利助《りすけ》さ、ふんぱつしてくれないかエ。きけば、お前《まえ》、だいぶ山林《さんりん》でもうかったそうだが。」
 利助《りすけ》さんは、いままで調子《ちょうし》よくしゃべっていましたが、きゅうに黙《だま》ってしまいました。そして、じぶんのほっぺたをつねっていました。
「どうだエ、利助《りすけ》さ。」
と、海蔵《かいぞう》さんは、しばらくして答《こた》えをうながしま
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