と梟《ふくろう》が鳴《な》いていて、崖《がけ》の上《うえ》の仁左《にざ》エ門《もん》さんの家《いえ》では、念仏講《ねんぶつこう》があるのか、障子《しょうじ》にあかりがさし、木魚《もくぎょ》の音《おと》が、崖《がけ》の下《した》のみちまでこぼれていました。もう夜《よる》でありました。行《い》ってみると、働《はたら》き者《もの》の利助《りすけ》さんは、まだ牛小屋《うしごや》の中《なか》のくらやみで、ごそごそと何《なに》かしていました。
「えらい精《せい》が出《で》るのオ。」
と、海蔵《かいぞう》さんがいいました。
「なに、あれから二へん半田《はんだ》まで通《かよ》ってのオ、ちょっとおくれただてや。」
といいながら、牛《うし》の腹《はら》の下《した》をくぐって利助《りすけ》さんが出《で》て来《き》ました。
 二人《ふたり》が縁《えん》ばなに腰《こし》をかけると、海蔵《かいぞう》さんが、
「なに、きょうのしんたのむね[#「しんたのむね」に傍点]のことだがのオ。」
と、話《はな》しはじめました。
「あの道《みち》ばたに井戸《いど》を一つ掘《ほ》ったら、みんながたすかると思《おも》うがのオ。」

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