なかろうが、そんなことは問題ではなかった。たとい、くじらがそこにいたとしても、みんなはもう、見ようとしなかったろう。
つかれのために、にぶってしまったみんなの頭のなかに、ただひとつ、こういう思いがあった。
「とんだことになってしまった。これから、どうして帰るのか」
くたくたになって、一歩も動けなくなって、はじめて、こう気づくのは、分別《ふんべつ》がたりないやりかたである。じぶんたちが、まだ分別のたりない子どもであることを、みんなはしみじみ感じた。
とつぜん、「わッ」と、だれかなきだした。森医院の徳一君である。わんぱくものでけんかの強い徳一君が、まっさきになきだしたのだ。すると、そのまねをするように兵太郎君が「わッ」と、同じ調子でなきだした。久助君も、そのなき声を聞いているとなきたくなってきたので、「うふうふン」と、へんななきだしかただったが、はじめた。つづいて加市君が、ひゅっ[#「ひゅっ」に傍点]といきをすいこんで、「ふえーん」とうまくなきだした。
みんなは声をそろえてないた。するとみんなは、じぶんたちのなき声の大きいのにびっくりして、じぶんたちはとりかえしのつかぬことをしてし
前へ
次へ
全31ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング