でいった。
野には、あざやかな緑の上に、白い野ばらの花がさいていた。そこを通ると、みつばちの羽音《はおと》がしていた。白っぽい松の芽が、におうばかりそろいのびているのも、見ていった。
半田池をすぎ、長い峠道をのぼりつくしたころから、みんなは、沈黙がちになってきた。そして、もしだれかがしゃべっていると、それがうるさくて、はらだたしくなるのであった。知らないうちに、みんなのからだに、つかれがひそみこんだのだ。
だんだん、みんなは、つかれのため頭のはたらきがにぶってきた。そして、あたりの光が弱ったような気がした。じっさい、日もだいぶん西にかたむいていたのだが、それでも、もうひきかえそうというものは、だれもなかった。まるで命令をうけているもののように、先へ進んでいった。
そして大野の町をすぎ、めざす新舞子《しんまいこ》の海岸についたのは、まさに、太陽が西の海にぼっしようとしている日ぐれであった。
五人はくたびれて、みにくくなって、海岸に足をなげ出した。そして、ぼんやり海の方を見ていた。
くじらはいなかった。また、太郎左衛門のうそだった!
しかしみんなは、もう、うそであろうがうそで
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