、これがあったんだなァ」
といって、おとうさんにきいてみると、それは、いぜんたばこをのむ人が持っていた、火ざらというものだそうである。そのさらの上に、まだ火のついているすいがらをのせておき、つぎのたばこにすいつけるための道具なのだそうである。
「そいでも、ここにこんなへそ[#「へそ」に傍点]みたいなものがあるのは、どういうわけだン?」
と、久助君は、あまりのばかばかしさに、すこしはらをたてていった。そのへそ[#「へそ」に傍点]には小さいあながあって、そこにひもを通したにすぎないと、おとうさんは教えてくれたので、もう久助君は、なにもいうことがなかった。まんまと、太郎左衛門に一ぱいくわされたのである。
 それにしても、なぜ太郎左衛門は、あんなうそをつくのだろう。なんというわけのわからぬやつだろう。
 よく日、久助君は、教室のまどにもたれてぼんやりしているうそつきの太郎左衛門の顔を、かれに気づかれぬよう、こちらの人かげから、まじまじとながめていた。そして、さらにきみょうなことを発見したのである。
 それは、太郎左衛門の目は、左右、大きさがちがうということである。右の目は大きい。左は小さい。そ
前へ 次へ
全31ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング