おいのする緑色のうみをだらりとたらしていたので、みんなが、例の音楽の道具をかそうとしなかったため、くやしがっていたからである。
久助君の番がきた。うけとってみると、黄色なつるつるの美しいゾウゲである。どびんのふたのように、一方がくぼんでいる。そして、くぼんだところのまん中に、小さいへそ[#「へそ」に傍点]みたいなものがとび出ている。そのへそ[#「へそ」に傍点]を、うまく耳のあなにはめこんできくのだそうである。
「うーう」と、モートルのうなっているみたいな音が、はじめきこえた。その「うーう」のなかに、マンドリンの音がまじってやしないかと、一心ふらんにきいていると、なるほどかすかに、ピンピンペンペンというような音がきこえるような気がする。
「うん、きこえるきこえる」
と久助君はいって、つぎのものにわたしたのであった。
それからまもなく、あしたは春の遠足という日に、久助君はじしゃく[#「じしゃく」に傍点]をさがすため、茶だんすの引き出しをみなひっぱり出して、いろんなガラクタのなかをかきまわしていた。すると、なかから、太郎左衛門が持っていたのと同じゾウゲのまるい道具が出てきた。
「うちにも
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