左衛門はうそつきであると、久助君は思った。するとどうしたわけか、学芸会のけいこをしていた太郎左衛門のねえさんを思い出した。だれも相手がいないのに、じっさいにいるようにじょうずにしゃべっていた、あの白い少女のことを。
 またあるとき、こんなことがあったそうである。雨をともなったはげしいかみなりが、頭の上をすぎていったあと、太郎左衛門が新一郎君に、
「いま、雲の中からひばりが一わ、かみなりにうたれてむこうに落ちたから、見にいこう。きっと、牛市場のあたりに落ちている」
と、声をはずませていった。新一郎君は、まさかうそとは思わなかったので、ついていって、まだぬれている牛市場の草をふみわけふみわけ、すみからすみまでさがしたが、牛のふんしか落ちてなかったそうである。これも、太郎左衛門のうそであったわけだ。

       五

 太郎左衛門が学校へ、どびんのふたぐらいの大きさの、まるいへんなものを持ってきて、
「これね、とってもおもしろいんだよ」
といった。
 みんなは、太郎左衛門がうそつきであることは承知していたが、いつでもそれを警戒しているわけにはいかなかった。ことに、こんなぐあいに、めずらし
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