きにいくと、こうだった。
兵太郎君が、太郎左衛門に一ぱいくわされたというのである。午《うま》ガ池の南の山の中に、深くえぐられた谷間がある。両側のがけが、ちょうど、びょうぶを二まいむかいあわせて立てたようになっている。太郎左衛門は、そういうところならとてもおもしろいことができると、兵太郎君にいったのだそうである。つまり、かた一方のがけの上からむこうのがけにむかって、「おーイ」とひと声よびかけると、それがこだまになってこちらへ帰ってくる。そして、こちらのがけにぶつかるや、またこだまになって、むこうのがけに帰っていく。むこうにぶつかって、また帰ってくる。こちらにぶつかってまたむこうへいく。そうして、いつまでもそのひとつの「おーイ」は、消えないのだという。ある科学の雑誌に書いてあったからほんとうだと、太郎左衛門はあかし[#「あかし」に傍点]までたてたのだそうだ。それならほんとうだろうと思って、兵太郎君は、きのう午《うま》ガ池へつりにいったついでに、例のところまでいって、ためしてみたのである。そして、太郎左衛門のことばが「うッそ」であることがわかったというのであった。
これじゃたしかに、太郎
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