なり、眼《め》をとじて百か二百かぞえ、それからさがしに出かけるのである。
だがそれをひとりでするときは心に流れるうらわびしさが、硝子《がらす》の指先にふれる冷たさや、土のしめっぽい香《かおり》や、美しい花の色にまでしみて余計《よけい》さびしくなるのだった。
ふたりか三人でその遊びをしたあと、家へ帰る前に美しい作品を一つ土中にうめておきそのまま帰ることもあった。その夜はときどきうめてきた花のことを思い出し床《とこ》の中でも思い出してねむるのである。
そんなとき土中のその小さな花のかたまりは私の心の中のたのしい秘密《ひみつ》であって、母にもたれにも話さない。つぎの朝いってさがしあててみると、花は土のしめりですこしもしおれずしかし明るい朝の光の中ではやや色あせてみえ私はそれと知らず幻滅《げんめつ》を覚えたのであった。また前の晩《ばん》にうめておいた花のことをつぎの朝、子ども心の気まぐれにわすれてしまうこともあった。そういう花が私たちにわすられたままたくさん土にくちてまじったことだろう。
私たちは家に帰る前に、また、そのとき使った花や葉を全部あつめほんとうに土の中に土をもってうめ、上を
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