。|角兵ヱ《かくべえ》は吹《ふ》くのをやめました。
「それで、きさまは何《なに》を見《み》て来《き》たのか。」
「川《かわ》についてどんどん行《い》きましたら、花菖蒲《はなしょうぶ》を庭《にわ》いちめんに咲《さ》かせた小《ちい》さい家《いえ》がありました。」
「うん、それから?」
「その家《いえ》の軒下《のきした》に、頭《あたま》の毛《け》も眉毛《まゆげ》もあごひげもまっしろな爺《じい》さんがいました。」
「うん、その爺《じい》さんが、小判《こばん》のはいった壺《つぼ》でも縁《えん》の下《した》に隠《かく》していそうな様子《ようす》だったか。」
「そのお爺《じい》さんが竹笛《たけぶえ》を吹《ふ》いておりました。ちょっとした、つまらない竹笛《たけぶえ》だが、とてもええ音《ね》がしておりました。あんな、不思議《ふしぎ》に美《うつく》しい音《ね》ははじめてききました。おれがききとれていたら、爺《じい》さんはにこにこしながら、三つ長《なが》い曲《きょく》をきかしてくれました。おれは、お礼《れい》に、とんぼがえりを七へん、つづけざまにやって見《み》せました。」
「やれやれだ。それから?」
「おれが、その笛《ふえ》はいい笛《ふえ》だといったら、笛竹《ふえたけ》の生《は》えている竹藪《たけやぶ》を教《おし》えてくれました。そこの竹《たけ》で作《つく》った笛《ふえ》だそうです。それで、お爺《じい》さんの教《おし》えてくれた竹藪《たけやぶ》へいって見《み》ました。ほんとうにええ笛竹《ふえたけ》が、何《なん》百すじも、すいすいと生《は》えておりました。」
「昔《むかし》、竹《たけ》の中《なか》から、金《きん》の光《ひかり》がさしたという話《はなし》があるが、どうだ、小判《こばん》でも落《お》ちていたか。」
「それから、また川《かわ》をどんどんくだっていくと小《ちい》さい尼寺《あまでら》がありました。そこで花《はな》の撓《とう》がありました。お庭《にわ》にいっぱい人《ひと》がいて、おれの笛《ふえ》くらいの大《おお》きさのお釈迦《しゃか》さまに、あま茶《ちゃ》の湯《ゆ》をかけておりました。おれもいっぱいかけて、それからいっぱい飲《の》ましてもらって来《き》ました。茶《ちゃ》わんがあるならかしらにも持《も》って来《き》てあげましたのに。」
「やれやれ、何《なん》という罪《つみ》のねえ盗人《ぬ
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