すびと》だ。そういう人《ひと》ごみの中《なか》では、人《ひと》のふところや袂《たもと》に気《き》をつけるものだ。とんまめが、もういっぺんきさまもやりなおして来《こ》い。その笛《ふえ》はここへ置《お》いていけ。」
|角兵ヱ《かくべえ》は叱《しか》られて、笛《ふえ》を草《くさ》の中《なか》へおき、また村《むら》にはいっていきました。
おしまいに帰《かえ》って来《き》たのは鉋太郎《かんなたろう》でした。
「きさまも、ろくなものは見《み》て来《こ》なかったろう。」
と、きかないさきから、かしらがいいました。
「いや、金持《かねも》ちがありました、金持《かねも》ちが。」
と鉋太郎《かんなたろう》は声《こえ》をはずませていいました。金持《かねも》ちときいて、かしらはにこにことしました。
「おお、金持《かねも》ちか。」
「金持《かねも》ちです、金持《かねも》ちです。すばらしいりっぱな家《いえ》でした。」
「うむ。」
「その座敷《ざしき》の天井《てんじょう》と来《き》たら、さつま杉《すぎ》の一枚板《いちまいいた》なんで、こんなのを見《み》たら、うちの親父《おやじ》はどんなに喜《よろこ》ぶかも知《し》れない、と思《おも》って、あっしは見《み》とれていました。」
「へっ、面白《おもしろ》くもねえ。それで、その天井《てんじょう》をはずしてでも来《く》る気《き》かい。」
鉋太郎《かんなたろう》は、じぶんが盗人《ぬすびと》の弟子《でし》であったことを思《おも》い出《だ》しました。盗人《ぬすびと》の弟子《でし》としては、あまり気《き》が利《き》かなかったことがわかり、鉋太郎《かんなたろう》はバツのわるい顔《かお》をしてうつむいてしまいました。
そこで鉋太郎《かんなたろう》も、もういちどやりなおしに村《むら》にはいっていきました。
「やれやれだ。」
と、ひとりになったかしらは、草《くさ》の中《なか》へ仰向《あおむ》けにひっくりかえっていいました。
「盗人《ぬすびと》のかしらというのもあんがい楽《らく》なしょうばいではないて。」
二
とつぜん、
「ぬすとだッ。」
「ぬすとだッ。」
「そら、やっちまえッ。」
という、おおぜいの子供《こども》の声《こえ》がしました。子供《こども》の声《こえ》でも、こういうことを聞《き》いては、盗人《ぬすびと》としてびっくりしないわけにはいか
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