花のき村と盗人たち
新美南吉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)花《はな》のき村《むら》に、

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)五|人組《にんぐみ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「修業《しゅぎょう》を」は底本では「修業《しゅぎょう》」]
−−

       一

 むかし、花《はな》のき村《むら》に、五|人組《にんぐみ》の盗人《ぬすびと》がやって来《き》ました。
 それは、若竹《わかたけ》が、あちこちの空《そら》に、かぼそく、ういういしい緑色《みどりいろ》の芽《め》をのばしている初夏《しょか》のひるで、松林《まつばやし》では松蝉《まつぜみ》が、ジイジイジイイと鳴《な》いていました。
 盗人《ぬすびと》たちは、北《きた》から川《かわ》に沿《そ》ってやって来《き》ました。花《はな》のき村《むら》の入《い》り口《ぐち》のあたりは、すかんぽやうまごやしの生《は》えた緑《みどり》の野原《のはら》で、子供《こども》や牛《うし》が遊《あそ》んでおりました。これだけを見《み》ても、この村《むら》が平和《へいわ》な村《むら》であることが、盗人《ぬすびと》たちにはわかりました。そして、こんな村《むら》には、お金《かね》やいい着物《きもの》を持《も》った家《いえ》があるに違《ちが》いないと、もう喜《よろこ》んだのでありました。
 川《かわ》は藪《やぶ》の下《した》を流《なが》れ、そこにかかっている一つの水車《すいしゃ》をゴトンゴトンとまわして、村《むら》の奥深《おくふか》くはいっていきました。
 藪《やぶ》のところまで来《く》ると、盗人《ぬすびと》のうちのかしらが、いいました。
「それでは、わしはこの藪《やぶ》のかげで待《ま》っているから、おまえらは、村《むら》のなかへはいっていって様子《ようす》を見《み》て来《こ》い。なにぶん、おまえらは盗人《ぬすびと》になったばかりだから、へまをしないように気《き》をつけるんだぞ。金《かね》のありそうな家《いえ》を見《み》たら、そこの家《いえ》のどの窓《まど》がやぶれそうか、そこの家《いえ》に犬《いぬ》がいるかどうか、よっくしらべるのだぞ。いいか|釜右ヱ門《かまえもん》。」
「へえ。」
と|釜右ヱ門《かまえもん》が答《こた》えました。これは昨日《きのう》まで旅《た
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