。だから押《お》す者《もの》は、十|米《メートル》ぐらいすすむたびに、乳母車《うばぐるま》のむきをかえねばならなかった。僕《ぼく》たちはこのやっかいな乳母車《うばぐるま》をかわりばんこに押《お》していったのである。
 正午《しょうご》じぶんに、僕《ぼく》たちは町《まち》の国民学校《こくみんがっこう》についた。昨日《きのう》のところになつかしいごんごろ鐘《がね》はあった。
「やあ、あるなア、あるなア。」
と、お爺《じい》さんは鐘《かね》が見《み》えたときいった。そして、触《さわ》りたいからそばへ乳母車《うばぐるま》をよせてくれ、といった。僕《ぼく》たちは、お爺《じい》さんのいうとおりにした。
 お爺《じい》さんは乳母車《うばぐるま》から手《て》をさしのべて、なつかしそうにごんごろ鐘《がね》を撫《な》でていた。
 僕《ぼく》たちは弁当《べんとう》を持《も》っていなかったので腹《はら》ぺこになって、村《むら》に二|時頃《じごろ》帰《かえ》って来《き》た。それから深谷《ふかだに》までお爺《じい》さんを届《とど》けにいってくるのは楽《らく》な仕事《しごと》ではなかった。が、感心《かんしん》なこと
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