と庵主《あんじゅ》さんも気《き》の毒《どく》そうにいうと、
「ああ、この頃《ごろ》は耳《みみ》の聞《き》こえる日《ひ》と聞《き》こえぬ日《ひ》があってのオ。きんの[#「きんの」に傍点]は朝《あさ》から耳《みみ》ん中《なか》で蠅《はえ》が一|匹《ぴき》ぶんぶんいってやがって、いっこう聞《き》こえんだった。」
と、お爺《じい》さんは答《こた》えるのだった。
お爺《じい》さんは息子《むすこ》さんに、町《まち》までつれていって鐘《かね》に一目《ひとめ》あわせてくれ、と頼《たの》んだが、息子《むすこ》さんは、仕事《しごと》をしなきゃならないからもうごめんだ、といって、お爺《じい》さんののった乳母車《うばぐるま》をおして、門《もん》を出《で》ていった。
僕《ぼく》たちは、しばらく、塀《へい》の外《そと》をきゅろきゅろと鳴《な》ってゆく乳母車《うばぐるま》の音《おと》をきいていた。僕《ぼく》はお爺《じい》さんの心《こころ》を思《おも》いやって、深《ふか》く同情《どうじょう》せずにはいられなかった。
それから僕《ぼく》たちの常会《じょうかい》がはじまった。するとまっさきに松男君《まつおくん》が、
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