のどがかわくと、水《みず》を貰《もら》いに立《た》ち寄《よ》るから、よく知《し》っているが、家《いえ》が四|軒《けん》あるきりだ。電燈《でんとう》がないので、今《いま》でも夜《よる》はランプをともすのだ。その近所《きんじょ》には今《いま》でも狐《きつね》や狸《たぬき》がいるそうで、冬《ふゆ》の夜《よる》など、人《ひと》が便所《べんじょ》にゆくため戸外《こがい》に出《で》るときには、戸《と》をあけるまえに、まず丸太《まるた》をうちあわせたり、柱《はしら》を竹《たけ》でたたいたりして、戸口《とぐち》に来《き》ている狐《きつね》や狸《たぬき》を追《お》うのだそうだ。
 お爺《じい》さんは、ごんごろ鐘《がね》の出征《しゅっせい》の日《ひ》を、一|日《にち》まちがえてしまって、ついにごんごろ鐘《がね》にお別《わか》れが出来《でき》なかったことを、たいそう残念《ざんねん》がり、口《くち》を大《おお》きくあけたまま、鐘《かね》のなくなった鐘楼《しゅろう》の方《ほう》を見《み》ていた。
「きのう、お別《わか》れだといって、あげん子供《こども》たちが、ごんごん鳴《な》らしたが、わからなかっただかね。」

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