射《はんしゃ》するのだ。
 じつにすばらしい花《はな》が日本《にっぽん》にはあるものだ。いつかお父《とう》さんが、日本《にっぽん》ほど自然《しぜん》の美《び》にめぐまれている国《くに》はないとおっしゃったが、ほんとうにそうだと思《おも》う。
 掃除《そうじ》が終《お》わって、いよいよ第《だい》二十|回《かい》常会《じょうかい》を開《ひら》こうとしていると、きこりのような男《おとこ》の人《ひと》が、顔《かお》の長《なが》い、耳《みみ》の大《おお》きい爺《じい》さんを乳母車《うばぐるま》にのせて、尼寺《あまでら》の境内《けいだい》にはいって来《き》た。
 きけばその爺《じい》さんは深谷《ふかだに》の人《ひと》で、ごんごろ鐘《がね》がこんど献納《けんのう》されるときいて、お別《わか》れに来《き》たのだそうだ。乳母車《うばぐるま》をおして来《き》たのは爺《じい》さんの息子《むすこ》さんだった。
 深谷《ふかだに》というのは僕《ぼく》たちの村《むら》から、三|粁《キロ》ほど南《みなみ》の山《やま》の中《なか》にある小《ちい》さな谷《たに》で、僕《ぼく》たちは秋《あき》きのこをとりに行《い》って、
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