の気《き》のつかないところをしてやろうと、御堂《みどう》の裏《うら》へまわって、藪《やぶ》と御堂《みどう》の間《あいだ》のしめった落《お》ち葉《ば》をはいた。裏《うら》へまわっていいことをしたと思《おも》った。それは僕《ぼく》の好《す》きな白椿《しろつばき》が咲《さ》いているのを見《み》つけたからだ。
 何《なん》というよい花《はな》だろう。白《しろ》い花《か》べんがふかぶかとかさなりあい、花《か》べんの影《かげ》がべつの花《か》べんにうつって、ちょっとクリーム色《いろ》に見《み》える。神《かみ》さまも、この花《はな》をつつむには、特別上等《とくべつじょうとう》の澄《す》んだやわらかな春光《しゅんこう》をつかっていらっしゃるとしか思《おも》えない。そのうえ、またこの木《き》の葉《は》がすばらしい。一|枚《まい》一|枚《まい》名工《めいこう》がのみで彫《ほ》ってつけたような、厚《あつ》い固《かた》い感《かん》じで、黒《くろ》と見《み》えるほどの濃緑色《のうりょくしょく》は、エナメルをぬったようにつややかで、陽《ひ》のあたる方《ほう》の葉《は》は眼《め》に痛《いた》いくらい光《ひかり》を反
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