鐘《かね》のまえに立《た》つと、手《て》にもっている小《ちい》さい鉦《かね》をちーんとたたいて、お経《きょう》を読《よ》みはじめた。はじめはみんな黙《だま》ってきいていたが、少《すこ》したいくつになったので、お経《きょう》を知《し》っている大人達《おとなたち》は、庵主《あんじゅ》さんといっしょに唱《とな》え出《だ》した。何《なん》だか空気《くうき》がしめっぽくなった。まるでお葬《とむら》いのような気《き》がした。年寄《としよ》りたちはみなしわくちゃの手《て》を合《あ》わせた。
鐘供養《かねくよう》がすんで、庭師《にわし》の安《やす》さんたちが、またごんごろ鐘《がね》を吊《つ》りあげると、その下《した》へ和太郎《わたろう》さんが牛車《ぎゅうしゃ》をひきこんで、うまいぐあいに、牛車《ぎゅうしゃ》の上《うえ》にのせた。その時《とき》、黄色《きいろ》い蝶《ちょう》が一つごんごろ鐘《がね》をめぐって、土塀《どべい》の外《そと》へ消《き》えていった。
和太郎《わたろう》さんが牛《うし》を車《くるま》につけているとき、みんなはまたいろいろなことをいった。
「この鐘《かね》がなしになると、これから
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