んが、鐘供養《かねくよう》をしたいといい出《だ》した。大人《おとな》たちは、あまり時間《じかん》がないし、もうみんなじゅうぶん別《わか》れを惜《お》しんだのだから、鐘供養《かねくよう》はしなくてもいいだろう、といった。しかし若《わか》い尼《あま》さんは、眼鏡《めがね》をかけた顔《かお》に真剣《しんけん》な表情《ひょうじょう》をうかべて、「いいえ、自分《じぶん》の体《からだ》を熔《と》かして、爆弾《ばくだん》となってしまう鐘《かね》ですから、どうしても供養《くよう》をしてやりとうござんす。」といった。
大人《おとな》たちは、やれやれ、といった顔《かお》つきをした。みんな、庵主《あんじゅ》さんがしようのない頑固者《がんこもの》であることを知《し》っていたからだ。しかし庵主《あんじゅ》さんのいうことも道理《どうり》であった。
鐘供養《かねくよう》というのは、どんなことをするのかと思《おも》っていたら、ごんごろ鐘《がね》の前《まえ》に線香《せんこう》を立《た》てて庵主《あんじゅ》さんがお経《きょう》をあげることであった。庵主《あんじゅ》さんは、よそゆきの茶色《ちゃいろ》のけさを着《き》て、
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