とポケットにつっこんだ松吉の右手に、だらしなくぶらさがり、ひと足ごとにおしりにぶつかります。
いくときの、希望《きぼう》にみちた心持ちにひきかえ、帰りの、なんという、まのぬけた、はぐらかされたような心持ちでしょう。
考えてみると、きょうは、あほ[#「あほ」に傍点]くさいことでした。第一、克巳《かつみ》に知らん顔をされました。第二に、だちんがもらえなかったので、帰りも電車に乗れませんでした。第三に、やはりだちんがもらえなかったので、雑誌《ざっし》や模型《もけい》飛行機の材料を買う夢《ゆめ》が、おじゃんになってしまいました。
こうしてじぶんたちは、すっぽかされて、青|坊主《ぼうず》にされて帰るのだと思うと、松吉は、日ぐれの風がきゅうに、かりたての頭やえり首に、しみこむように感じられました。
「どかァん。」
と、杉作がとつぜん、どなりました。
また、とび[#「とび」に傍点]かと思って、松吉は見まわしましたが、それらしいものは、どこにも見あたりません。かれたクワ畑のむこうに、まっかな太陽が、今しずんでいくところでした。
「なにが、おるでえ。」
と、松吉は杉作にききました。
「なにも
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