て、いまにおりてくるだろう。そしておれたちと遊んでくれるだろうと、松吉は考えていました。
 だが、克巳はさっぱりおりてきませんでした。
 やがて、克巳の友だちらしいのがふたり、
「克巳くゥん。」
 といって、外から店にはいってきました。
 克巳は二階からおりてきました。
 松吉は、胸《むね》がわくわくしました。こんどこそ克巳が、松吉たちになにかいってくれると思ったのです。
 しかし克巳は、松吉には目もくれませんでした。そして、ふたりの町の友だちを手まねきして、三人いっしょに、どやどやと二階へあがってしまいました。
 松吉は、つき落とされたように感じました。じぶんの立っている大地が、白ちゃけたさびしいものにかわってしまいました。
 松吉にはわかりました。克巳にとっては、いなかで十日ばかりいっしょに遊んだ松吉や杉作は、なんでもありゃしないんだと。町の克巳の生活には、いなかとちがって、いろんなことがあるので、それがあたりまえのことなんだと。

         四

 松吉と杉作は、町から村のほうへ、魂《たましい》のぬけたような顔をして歩いていきました。
 からの重箱《じゅうばこ》は、ズボン
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