ました。
時計を見ると三時四十分でした。さっきは、入口のガラス戸の下までさしていた日ざしが、いまは、上の方に忘れられたように、ほんのすこしのこっているだけです。
と、そのとき、入口の戸をガラガラと乱暴《らんぼう》にあけて、茶色のジャケツをきた少年が手さげかばんを持ってはいってきました。
「ただいまァ。」
克巳《かつみ》でした。
松吉と杉作は、一ぺんに生きかえりました。「克巳ちゃん。」ということばが、松吉ののどのところまで出てきました。しかし、そこで、とまってしまいました。克巳のあまりに町《まち》ふうなようすに対して、じぶんたちのいなかくささが思い返されたのでした。
克巳は、最初に松吉と、それから杉作と顔をあわせました。しかし克巳の目は、知らない人を見るように冷淡《れいたん》でした。おれたちが、松吉、杉作なことが、まだ、わからないのかなと、松吉は思いました。歯がゆい感じでした。
克巳はながくは、そこにいませんでした。松吉のうしろの階段《かいだん》をのぼって、二階へ上がってしまいました。
でもまだ松吉は、望みをすてませんでした。克巳《かつみ》は、ちょっとした用事を二階ですまし
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