うことになりました。
 松吉はこわごわ、りっぱな腰かけにのりました。ばかに高いところに、のぼったような気がしました。すぐ前の大きい鏡に、あまりにはっきり、じぶんのひょうたん顔がうつりましたので、はずかしくなりました。
 小平さんは、まっ白な布で、松吉の首から下をつつんでしまいました。手も出ませんでした。
 小平さんは、どこかからバリカンをとり出してきました。バリカンは、家のと同じもののように見えました。バリカンがさわったとき、松吉は思わず首をすくめました。このバリカンも、かみつくかと思ったのです。
 ポロリと、白い布の上に落ちてきたものを見ると、かられた、黒い、じぶんのかみの毛でした。なァんだ、もうかられているのかと、思いました。ちっとも、いたくないではありませんか。そこで松吉は、やっと安心して、かたの力をぬきました。
 かみがかられてしまうと、松吉は、これでおしまいだと思いました。家ではいつでも、それだけだったからです。ところが、おどろいたことには、腰かけがキーイとかすかな音をたてて、うしろへたおれていきました。
「あッ。」
 と、松吉は、声をたてました。しかし、腰かけはたおれたので
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