クスリとわらいました。
 松吉も杉作も、生まれてからまだ一ども、床屋《とこや》でかみをかってもらったことはありませんでした。いつもふたりのかみをかったのは、おとうさんか、おかあさんの手ににぎられたバリカンでした。そのバリカンは、もう五、六年まえから、ひどく調子《ちょうし》が悪く、ときどき、ぐわッと大きくかみついて、とることもどうすることもできなくなってしまうようなしまつでしたので、ふたりは、家でかみをかることを、あまり好んではいませんでした。
 ふたりは、目の前にある、りっぱな腰かけを見ました。白いせともののひじかけがついています。おしりののるところは、黒い皮ではってあります。もたれるところも、黒い皮です。その上に、小さいまくらのようなものまで、ついています。下の方は、足をのせるかねの台があって、それにはすかしぼりの模様《もよう》があります。このりっぱな腰《こし》かけに腰かけて、やってもらうのです。ふたりはまた、なんとなく顔を見あわせました。
 小平さんにうながされて、松吉と杉作は、先をゆずりあって、おたがいにすみの方へひっこみあいをしましたが、とうとう、にいさんの松吉が、先にしてもら
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