いてすてました。重箱《じゅうばこ》は松吉が持ちました。松吉は口の中で、むこうでいうように、おかあさんから教えられてきたことを、復習《ふくしゅう》しました。
店の前までくると、入口のすりガラスの大戸の前には、冬の午後の、かじかんだ日ざしをうけて、ひとつひとつの葉の先に、とげのあるらんの小さい鉢《はち》がふたつおいてありました。らんの根もとには卵《たまご》のからがふせてあって、それに道のほこりがつもって、うそ寒いように見えました。しかし、店の中は、すりガラスでよくは見えませんが、あたたかそうな湯気《ゆげ》がたっています。そこには、やさしいおばさんおじさん、なつかしい克巳がいるのです。
重いガラス戸をあけて中へはいりますと、おじさんがひとり、たたみのしいてあるところに、あおむけにひっくり返って、新聞を読んでいました。こちらの方では、まるい銀の頭を、ぴかぴかにみがきあげられたタオルむしが、ひとりで、ジューン、ジューンと湯気をふいていました。
おじさんは新聞を読みながら、うとうとしていたらしく、しばらくそのままでいましたが、やがて、人のけはいにおどろいて、ガバッと新聞をはねのけ、起きあがり
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