はいかねえ、さうなつたら籤引きだ。』
『籤引は面白くねえ。角力で一番強いもんだ。』
『角力はいけねえ、駈けつこだ。』
『ナニかけつこなんぞ駄目だ。俵かつぎで一番力持ちが勝だ。』
 かうして彼等の話は果しなくつゞく。頭の上では蝉がヂン/\啼きしきる。

         五

 中天に焦げついたやうな太陽もいつか傾いた。眞赤に溶けた光を投げながらヂリ/\と田圃の彼方の雜木林の上に落ちて行くと、大空一面に狐色の夕映えが漲り、明日もまた旱天が間違ひなく來ることを思はせる。枯れそめて所々黄ばんで來た稻田の上にも、乾からびた葉を縮めて何の艷もなくなつた畑作の上にも、夕靄がホーツと浮ぶころ、村の森では、今日もよく日が照り、よく乾いたことを喜ぶやうに、蜩が一せいに、カナ/\/\と啼く。この森で一しきり啼くと、それに答へるやうに向うの森でまた一せいに啼く。
 やがて梟が闇を吐き出すやうにホーツ、ホーツと啼き出して、村は森とした夜に鎖される。蠶で夜遲くまで起きている家では、庭に縁臺を出し、傍に蚊やりを焚いてそこへ寢ころんでゐる。前の籔で、くつわ虫がガシヤ/\/\と乾いた音を立て始める。その音が燒けた石を
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