大事な水を、あんな娘《あま》の――父親のわからねえ餓鬼を二人もなしたやうな娘のために使つて堪るもんか。』
『また誰かの餓鬼を孕んでんだとよ。』
『さうか、あの娘《あま》が、また!』
『どうしたら子供をおろせるかつて、泣きながら俺らおふくろに相談したちうよ。』
『どうだオイ、そんな娘《あま》が可哀相かよ。』
『お前はまたひどくおしんがこと惡く言ふで、肘鐵砲でも喰つたと見《め》えら。』
『ぶんなぐるぞ。』
『アハヽヽヽ。』
『こんだア、誰の餓鬼だんべ。』
『何でも茂右衞門どんの伜だちうよ。』
『あの野郎かえ、太い野郎だ。四五年前にやあの茂右衞門親爺が、多助どんの嚊をぬすんでよ、それでたつた酒三升で濟したちうだ。地主だ、總代だなんどと威張つてやがつて、太《ふて》え親子だ。雨乞ひにだつて一昨日《おとてえ》から出やしねでねえか。』
『二年や三年飢饉がつゞいたつて、あすこぢや平氣だかんな。銀行にしこたま預けてあんだから。』
『くそ、そんな野郎は村からおん出しちまへ。』
『おん出しちまつて、田地をみんなで分けつこしちまうんだな。』
『そらいゝや。俺が眞先きに、一番いゝ所をぶん取つてやらア。』
『さう
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