旱天實景
下村千秋
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)あんな娘《あま》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)どくだみ[#「どくだみ」に傍点]草が
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ギリ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
一
桑畑の中に、大きな葉をだらりと力なく垂れた桐の木に、油蝉がギリ/\啼きしきる午後、學校がへりの子供が、ほこりをけむりのやうに立てゝ來る――。
先に立つた子が、飛行機の烟幕だといひながら熱灰が積つたやうなほこりの中を、はだしの足で引つ掻きながら走る。ほこりは、子供のうしろに尾を引いてもん/\と黒くなるほど舞ひ上る。うしろの子供等は、敵機追撃だと叫びながら口でうなりを立てゝ、ほこりの中に走りこむ。幾つかの影が、一時まつたくほこりの中に消えて、やがて一つ一つ、兩手を掻き廻しながら、こちらへ拔け出して來る。それからみんなほこりで眞黒になつた口を開けて一せいに『ワーツ……』と譯もなく喚聲をあげる。その聲は、何の反響もなくほこりの中に吸ひこま
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