頭だ、お前はそつちの手……』
『そんなことで運べるもんか、誰か、達さんがいい、お前おぶつて行け。』
『おしんさんよ、おしんさんよ、氣、しつかり持てよ。』
 死んだやうな行列はそこで急に活氣づき、周圍にほこりのけむりを一層舞ひ上げながら、村の森へ入つて行く。

         四

 村の入口の樹蔭に殘つた四五人は、傘をつぼめ、麥藁帽を脱ぎ、肌を脱いで、草の上に脚をなげ出し、大きな聲で言ひ合ふ。
『俺がいふこと間違つてるかよ。雨乞ひにいたゞいて來た水が、人の命を助ける譯はあんめえ。萬が一、あの水を飮んでおしんの命が助かつたつても、そのために五日もやつた雨乞ひがペケになつたらどうするんだい。雨が降らなければ村中……村中どころか、日本中の人の命が助かるめえ。おしん一人が命のためにそんなことは出來る譯がねえよ。』
『そらさうだが、雨の降る樣子はどこにもあんめえ。俺等が死ぬまで願をかけたつて、降らねえ時は降らねえんだ。そんならいつそ……』
『馬鹿こけ、そんな心掛けだからこんな日でりがつゞくだ。三峯山から三日三晩歩き通しでいたゞいて來た水でも、一たらし外のことに使つたらもう御利益はねえだ。そんな
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