ものがある。その間にも一休みしようと道端の草へべつたりと坐つて、ハー/\と苦しさうな息を吐く老人がある。さうして行列の進行は一時止る。
達吉の手につかまつて辛うじて歩いてゐたおしんが、唇まで青くして急にバタリと地べたへ倒れたのである。眼を白くし、身體中を細かく顫はしてゐる。膝の上までほこりが眞黒にひつついた兩脚をしやつきりとふんぞつてゐる。それを見るとみんなむせかへるやうな氣持になる。
『おしんさんよオ……おしんさんよオ……』女達が傍で叫ぶ。
『それ、顏へ傘を差しかけてやれよ。』さう言ふものがある。
『醫者どんを呼ばつて來ざなるめえ。』
『こんな場所へ醫者どんが來るもんかよ。』
『ソレ、水を、水を飮ませろ。』
『オ、オツ。雷神樣からいたゞいた水を飮ませてなるもんかよ。』
『それだつて仕樣があんめえ。』
『仕樣があんめえつて、そんなことがなるもんか。』
『人の命を助ける水だもの、何が惡いか。』
『いけねえ/\、一たらしだつて外のことに使つたら今までの願が臺なしになつちまふ――いくら人の命を助けるだつて、そいつア俺が使はせねえ。』
『ぐづ/\してる間に、はやく村へ連れて行けよ。ソラお前は
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