からいたゞいた水を各自が竹筒に入れて持つてゐる、その水を飮まうとする。
『それを飮んでなるものか、今までの雨乞が臺なしになつちまうわ。』と、一人が言ふ。
『オーイ、もつとはやく歩け。雷神樣ア、のろまが大嫌ひだと。』向うで誰かが怒鳴る。
『何をぬかす。今になつて急いだつて間に合ふか。』
『さうよ、もうはア稻も岡穗も刈り飛ばして、みんな馬に喰はせつちまへばいゝだ。』
『それでみんな首を吊つて死ねばいゝだ。』
『それでおしまひだ。』
『あれを見ろ、おしんのあま、いゝ氣になつて達公の手をつかめえて歩いてやがら。』
『あの肥つちよの乳のところをえぐり拔いて血祭りでもすると、雨は今日がうちにも降るで。』
『われがそれをやつて見ろ。』
『何が出來るもんか、こいつ、あいつに惚れてんだよ。』
『馬鹿野郎。』
『何を!』
『うるせい、默つてドシ/\歩け!』
 ほこりの中のわめき合ひはそれで消えて、行列はまた默々と動いて行く。

         三

 と、うしろの方で變に鋭どい叫び聲があがる。五、六人が一かたまりになつて押し合ふやうなことをしてゐる。そこへわた/\走つて行く若者がある。立ち停つて見てゐる
前へ 次へ
全16ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 千秋 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング