茂右衞門、門を開けろ!』
『お父つアんよー、お父つアんよー。』
女の兒はワー/\泣きながら、父親の背後からぢだんだ踏んで、父を呼ぶ。
女達が二三人、そこへ走つて來る。
『おみよや、はやくこつちサ來うよ。お父つアんはな醉つぱらつてんだから構はねえで、はやく姉ちやんとこサ行けよ、姉ちやんが呼んでるよ。』
しかし彼女はそれを耳にも入れず、
『お父つアんよー、お父つアんよー。』とわめきつゞける。と、一人の女が、全身で門の扉にぶつかつてゐる父親の首根へ、ぐいと力限り抱きつき、昂奮と涙で顫へてゐる聲で、その耳元へ叫ぶ。
『お父つアんよ。おみよが、おみよが夢中で呼んでんでねえか。はやく家サ歸つてやれよ。おしんさんが惡いだよ、おしんさんが死にさうだよ。』
父親はそこで、外の女達に兩手を掴まへられ、尻を押しこくられて、家の方へ連れ戻されて行く。彼は、ふんぞりかへり、口から泡をふきながら苦しさうな息を吐き吐き、ガクリ/\と足を運ぶ。女の兒はその前に立ち、はだしの小さな足でほこりをぷか/\立てながら、ウーウーとうなるやうに泣いて行く。
『おみよや、はやく姉ちやんとこサ行けよ、かけて行けよ。』
さう
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