淫らな心がやつぱり堪らなかつた。そのことで由藏はしよつちうおさわを酷い目に逢はした。いつしよになつてから七年目に由藏夫婦は船頭を止めて村の親爺の家へ歸つて來なければならなくなつた。それは由藏が賭博に負けて持ち船まで取られて了つたためであつた。
 親爺は由藏がかへると、由藏を連れて村の一軒一軒を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つた。
「どうかよろしく頼んます、村の為めならどんなこつてもさせますで」と親爺は懇ろに頭を下げて、青洟をたらした子供等にまで仲間入りを頼んだ。このとき由藏は、この親爺はやつぱりほんとうの親爺かも知れないと思つた。そしてさう思ふ由藏の心を壞すやうなことを由藏と面と向つて言ふ村の者もなくなつた。
 由藏は親爺に頼んで貰つて、僅かばかりの小作をした。それからおさわと二人で村の被庸とりをした。由藏は決しておさわ一人を稼ぎには出さなかつた。
「由公のやきもちは煮ても食へねえど」と村の若い者は言つた。かうしたことは彼が船頭をしてゐる時も仲間からよく言はれた。さう言ひながら村の若い者だちは由藏をやかせて怒らせることを面白がつた。由藏はその度に只おさわばかりを擲つたり蹴つたりした。おさわはヒーヒー泣いた。けれどものの三十分とも経たないうちにけろりとした顏に返つた。由藏はそれを見ると一層むしやくしやして、もう死ぬやうな目に逢はせた。おさわの身体には生傷が絶へなかつた。
 或る夜由藏はやつぱり嫉妬から、たうとう村の若者の腦天に、五針も縫はねばならぬほどの傷をつけた。村の若い衆は由藏の家へ押しかけて來て、由藏を警察へ引つ張つて行かうとした。由藏は柱へしがみついて動かなかつた。親爺は若い衆の前に泣いて頼んだ。
「警察へだけは引つ張つてつてくれんな、その代りこいつの身体を打つなり縛るなりしてお前さん達がぢかに懲らしめてやつて呉ろ」と言つた。
「なにこの野郎、賭博《ばくち》も打てば泥棒もした奴だ、こんな惡黨はこの村にや置けねえ」と若い衆はいきり立つた。親爺は地べたへべつたり坐つて皆に頼んだ。
 そこで若い衆は由藏を村端れの第六天の森の中に連れて行つた。そして草の上にうつ伏せにして、その尻を青竹でひつぱたいた。百だけ打つて勘辯してやらうといふのであつた。尻の肉が青竹にむしり取られた。由藏は鼻先を土の中へ突つ込んで獣のやうにうめいていた。若い衆も流石に極めただけの數を
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