た。その答案と云ふのが而も妙なもので、畫である。そこで大變に心配になり出して、杉の根もとに腰を懸けて、さてどうしようと思案をしたが、此處でぐづぐづとかうして居ても仕方がない、いやではあるが、之から戻つて行つて、その局のものに願つて追試驗をして貰はうといふ氣が起つた。せかせかと息を切つて半里ばかり驅《かけ》つて來ると、村役場がそこにあつた。
 臺所の方へそつと入つて行くと小使が一人居て何と云つても返事をしない。もう向ふが感付いたのだといふ※[#「※」は「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11、231中−2]り氣を出して、それから手足が麻痺したやうに感じられ、表口の受付へ行く氣になれない。
 それでもまた氣を取り直ほして役場の玄關へ行くと、折惡しくも野澤先生といふ、小學校の時の一番こはい先生が居た。先生はわけを話すと、聽いて居られないやうな皮肉を言つた。するとこの時忽ち他のも一つの事が彼の頭に浮んで來た。野澤先生は自分の極々《ごくごく》祕密にして居たことを知つて居るのだといふ考である。
 彼はもう仕方がないと斷念して、急いで玄關から出て行つた。するとそこが忽ち細長い部屋になつた。お寺の坊
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