少年の死
木下杢太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)鉤手《かぎのて》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)この日|例《いつ》になく

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、底本のページと行数)
(例)やさしき御姉妹[#「やさしき御姉妹」に傍点]
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 八月の曇つた日である。一方に海があつて、それに鉤手《かぎのて》に一連の山があり、そしてその間が平地として、汽車に依つて遠國の蒼渺たる平原と聯絡するやうな、或るやや大きな町の空をば、この日|例《いつ》になく鈍い緑色の空氣が被《おほ》つてゐる。
 大きな河が海に入る處では盛んな怒號が起つた。末廣がりになつた河口までは大河は全く平滑で、殆ど動《どう》とか力とかいふ感じを與へない、鼠|一色《いつしき》の靜止の死物であるやうに見えて居ながら、一旦海の境界線と接觸を持つと忽ち一帶の白浪が逆卷き上り、そして(遠くから見て居ると)それが崩れかけた頃になつて(近くで聽いたならば、さぞ恐しい音響であらうと思はれるほどの)音響が、遠くの雷鳴のやうに響いた。
 然しな
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