たつて、姉さんが御飯ぐらゐ世話してあげるから。」
「だつて姉さん、僕よりずつと年の上の人なんだよ。もう二十より上の人なんだから……それに僕アそんなに善く知らないんだから……」
「兎に角お前もう起きて顏をお洗ひ。そしておやつをお食《あが》りよ。」
姉は下へ降つて行つた。少年はなほ寐たままでいろいろの事を考へた。そして
Desperately……desperately……
と獨語(ひとりごと)を言つた。
時計は四時半を過ぎてゐる。次の列車の着する迄にはまだ一時間ばかりの間があつた。
少年は立ち上つた。その刹那、殆ど口へ出るばかりに、心の中で、かう叫んだ。
「僕は死んであやまる!」
「拜啓暑氣|嚴敷《きびしく》候處貴君は如何に御消光なされ居り候や明媚なる風光と慈愛に富める御兩親またやさしき御姉妹の間に愉快に御暮し居り候事と存候|陳者《のぶれば》小生も一月ばかり御地にて銷夏致度就ては成るべく町外れにて宿屋にあらざる適當なる家御尋ね置|被下間敷哉《くだされまじくや》但自炊にても差支無之候……」
二週間ばかり前に富之助は鹿田から突然かう云ふ手紙を受取つた。その時は既に封筒の名を見ただ
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