フ幾列かの布との間に、一種の快き色彩の諧調を作り出して居る。河原の水際には澁紙で貼つた行李が二三箇積まれてある。そのそばで話しながら二三の人が仕事をして居る。或者は何かしらん齒車仕掛のものを頻りと※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]して居る。或者は黒いズボンのままで川へはひつて樺色の長い布を引摺出してくる。或者はまた懸け弔るした淺葱の友禪を外して二人で引張つては、それから互に相近づき、更に元より近く相離れ、更に復近づいて、かくて二つに疊まれたものは四つに、四つのものは八つに疊まれ十六に疊まれて石の上に置かれる。そして竿の間に張られた綱に隙間が生じて來ると川からの人が、更に色の變つたムスリンをだらりと弔るすのである。
 京都や大阪の町、及びそこの形態的生活は友禪的に色斑らに、ちやうど抱一が畫いた菊の花瓣のやうに綺麗である。然しここの生活だけは乳金、代赭《たいしや》、群青《ぐんじやう》の外にエメロオド、ロオズマツダア等を納れ得るのである。あの布を干す二三人の群を目の粗いカン※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]スに取つたら嘸《さぞ》愉快の事だらう。
 もとよりその外に祐信や清長の見方
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