子はせまい、悲しみに捕はれなくなった。そして、彼女は、すべての世の中すべての自然をパラダイスのやうに見たのだった。
空想と理想は、それに由って建設された。彼女はすべてに対して微笑と親しみとを欲した。そして彼女は、兄夫婦と同居することについて新生活を予想するやうな、嬉しさを持った。辰子は、すべてを自分の理想のなかにつゝんでしまった。
そして明るいはなやかな、親しみと嬉しさを持って、家の門を入って来る嫂を見た。別れてから二年たってゐたけれども、嫂の様子は学校時代と少しもかはらなかった。
玄関には、おそ咲きの梅が咲いてた。嫂はその梅を一寸見て部屋のなかに入って来た。
辰子は、嫂を初めて近くに見た。
嫂ははじめ、無頓着なあっさりした、気のよさそうな人に見えた。そしてまた遠慮してゐるやうにも見えた。彼女は、早く親しみたいといふ嬉しい気づかひを持って、落ちつかなく日常のことをしてゐた。玄関の側の部屋にゐる嫂の方に気を、とられてゐた。しかし、まだ臆病な彼女には、自づから進んで嫂のなかに入ってゆく事が出来なかった。
親しみをお互に求め合ふことは出来ても、何物もない所に、親しみ入らうとするこ
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