は、彼女たちの長い間のくせであったので、彼女はそのくせによって、いつのまにか歩いてた。そして運動場の窓際の椅子まで来て、腰を降ろした。
辰子は、もはやうれしいことでもなんでも[#「も」は底本では脱落]なくなった。話さなければゐられなくなった。
『あのね』彼女は、もう一度注意を引いた。
『山口さん、二三日うちに若い国語の先生が入らっしゃるんですって。』
彼女は、まだ/\云ひたいことがあるのをひかへて、それだけ云った。そしてもはや、自分の身家《みうち》のものに対するやうに、人の心持を気づかってたのだ。
『あら、そう、いゝ先生が入らっしゃるといゝけれども。』
友だちは、すぐあとをつゞけて云ったけれども、それ丈けしか云はなかった。辰子は、夕、母親の云った言葉をすぐ、思出してゐた。「お花も、お茶もお琴も、そして職業学校では、造花と裁縫をやったし、女子大学の方では国文科だったんだから――」その先生は、なんにも出来ない事はない、どうしてそれが悪い先生だらう。辰子は、すっかり信じてゐた。そして、その先生が自分の嫂さんになるのだ。辰子のうれしいことは、そのことであった。
『えゝ、それは』彼女は息ご
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