のことを思出して、一人で笑った。少しは、おかしい事も笑ひたいこともありそうなものを、いつも/\真面目な顔をしてゝ自分ながら、おかしくてならないだらうかと考へた。
彼女は、もはや嫂の真面目な顔、強い足音を聞いても、恐怖ばかりでなくなった。瞬間の恐怖についで不安のおかしさが入りみだれて来た。かなしさは、淡くなって彼女を考へさせることをしなかった。
若い彼女のよろこびや、うれしさは、また遠く外に向って走った。彼女は、美しいものにあこがれ、恋を思った。けれども、辰子は家にゐて嫂の姿や顔を見る時、不思議を感ぜずには居られなかった。
嫂は、若い日の喜びや悲哀があったらうか。嫂は、恋を思ったことがあるだらうか。
辰子は、殆んど興味に近い感情を持って、嫂がいかなる感情の一面を持ってるかを知りたくてならなかった。
青葉の影が濃くなった。嫂の部屋は、濃い青葉の影と明るい初夏の日光のなかに開けられてあった。辰子は、嫂の部屋を初めて見た。窓際に大きな机が置いてあって、大きな硯箱が一つのせてある。そしてペンとインキが端の方にあった。
床の間には、小箪笥《こだんす》が置いてあって、その側には、驚く程沢
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