間のもついろ/\な欲望、殊にいやしさが目についた。けれども弱い辰子には、それによって自分の悲しみや不安を笑ふことは出来なかった。そして、彼女はなほ嫂に対する理想を持ち、親しみを欲してゐた。それで嫂を自分から離すことが出来ずに、自分のなかに置いてかなしんだ。
 辰子は、縫物などのわからない所を、たづねやうと考へては、嫂の部屋の前でまよった。彼女は、自分が学校にゐる時から嫂を信じてゐたことが、間違ひでなかったらうかと考へた。なぜ嫂のことばかりに、執着して自分は恐れかなしんでゐるのだらうかと考へた。
 彼女には、みえ[#「みえ」に傍点]があった。いかなる事に対しても嫂を悪く云ふまい、憎くまぬといふのであった。自分が初めて信じたことをとほして、どんな嫂でも親しまねばならない[#「ならない」は底本では「ならならない」と誤植]といふのであった。彼女には、意地があった。彼女は、その意地を通すことが出来ないので、不安であった。
 しかし、彼女は、日がたつに従ってゆるやかに嫂をはなれて見た。そうしてゐるうちに嫂に対して、かなしみや恐れよりは、おかしさの方が先に立って来た。そして辰子はすぐにフランチェスカ
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