な》し合《あ》つたのちは、二人《ふたり》とも過去《くわこ》の山《やま》や川《かは》にその心《こゝろ》を吸《す》いとられたやうに、ぽかんとしてゐた。お互《たがひ》になんとなくつまらない、とりとめもない不安《ふあん》と遣瀬《やるせ》なさが、空虚《くうきよ》な心《こゝろ》を包《つゝ》んでゐるやうであつた。二人《ふたり》は家《いへ》にゐることが淋《さび》しく、夜《よる》になつて寢《ね》ることがものたりなかつた。
『外《そと》に出《で》てみないか。』
『えゝ、家《いへ》にゐてもつまらないわね。』
そして彼《かれ》と彼女《かれ》とは、子供《こども》を抱《だ》いて家《いへ》を出《で》るのであつた。けれども、どこと云《い》つてあてもないので、二人《ふたり》はやはり電車《でんしや》にのつて銀座《ぎんざ》に出《で》てしまつた。
末男《すゑを》は子供《こども》を抱《だ》きながら、まち子《こ》と一|所《しよ》に銀座《ぎんざ》の明《あか》るい飾窓《かざりまど》の前《まへ》に立《た》つて、星《ほし》の見《み》える蒼空《あをそら》に、すき透《とほ》るやうに見《み》える柳《やなぎ》の葉《は》を見《み》つめた。そし
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