て、しばらく自分《じぶん》だちとはかゝはりもなく、行來《ゆきゝ》する人《ひと》の足音《あしおと》を聞《き》いてゐた。
『どうしませうね。』
 やがて、まち子《こ》は立《た》ちくたびれたやうに云《い》ふと、末男《すゑを》は氣《き》づいてあてもなく歩《ある》き出《だ》した。しかし足《あし》の惡《わる》いまち子《こ》は、すぐに疲《つか》れるので、やがて靜《しづ》かなカフエーかレストランドに入《はひ》らなければならなかつた。
 二人《ふたり》は、子供《こども》を抱《だ》いて明《あか》るい通《とほ》りから折《を》れて、暗《くら》い道《みち》を歩《ある》いた。暗《くらい》い所《ところ》に來《き》ても、銀座《ぎんざ》の明《あか》るみを歩《ある》く人《ひと》の足音《あしおと》は聞《きこ》えた。
『銀座《ぎんざ》はずゐぶん、いろんな人《ひと》が歩《ある》いてゐさうだわね。』
 まち子《こ》は、夫《をつと》のあとから歩《ある》きながら、一人《ひとり》ごとのやうにきこえない位《くらゐ》な聲《こゑ》で云《い》つた。そして、あのぞろ/\と歩《ある》いてゐる人《ひと》の一人一人《ひとりひとり》の過去《くわこ》や現
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