《あ》はふとは思《おも》はない、只《たゞ》あの石狩原野《いしかりげんや》だの、高原《たかはら》の落日《おちひ》、白樺《しろかば》の林《はやし》なにを考《かんが》へてもいゝなあ――それに五|月《ぐわつ》頃《ころ》になるとあの白樺《しろかば》の根《ね》に、紫色《むらさきいろ》の小《ちい》さいかたくりの花[#「かたくりの花」に傍点]が咲《さ》くなんていふことを考《かんが》へると、全《まつた》くたまらない。來年《らいねん》こそは、どうしても行《い》つて見《み》やう。
『本當《ほんたう》にね、どうにかして行《い》つて見《み》ませうね。[#「見《み》ませうね。」は底本では「見《み》ませうね」]私《わたし》は、ステイシヨンについたらすぐに、車《くるま》でお父樣《とうさま》のお墓參《はかまゐ》りに行《い》かうと思《おも》ひますわ。創生川《そうせいがは》ぶちから豐平橋《とよひらばし》を渡《わた》つて行《ゆ》くんですわ。あなたも、一|所《しよ》に行《い》つて下《くだ》すつて。』
『ううむ、行《ゆ》くさ。』
 末男《すゑを》は、無雜作《むざうさう》[#ルビの「むざうさう」はママ]に答《こた》えて、
『俺《お
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