《し》り合《あひ》になつてゐたらどうなつたでせうね。』
『お前《まへ》が、十四五|位《くらゐ》の頃《ころ》だらう。』
『えゝ。』
 彼女《かれ》は、眞面目《まじめ》な顏《かほ》をして、うなづいた。
『じや、お互《たがひ》に戀《こひ》したね。きつと。』
 二人《ふたり》は、そんな話《はな》しをして、つまらなそうに笑《わら》つた。[#「笑《わら》つた。」は底本では「笑《わら》つた」]そして、なんとなく秋《あき》らしい空《そら》のいろと、着物《きもの》の肌《はだ》ざわりとに氣《き》がつくと、やはり二人《ふたり》は堪《た》えがたいやうに故郷《こきやう》の自然《しぜん》を思浮《おもひうか》べるのであつた。そして、しばらく物《もの》をも云《い》はずに考《かんが》へ込《こ》んだやうにしてゐると、急《きふ》に日《ひ》が短《みぢ》かくなつたやうに、開《あ》けはなしてある椽《えん》の方《はう》からうす暗《くら》い影《かげ》が見《み》え初《はじ》めるのであつた。
 けれども、まち子《こ》はそれをかへり見《み》やうともせずに、
『私《わたし》、北海道《ほくかいだう》に行《い》つても、誰《た》れにも知《し》つた
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