上《いじやう》、あきらめてゐるに違《ちが》ひない。彼《かれ》は、松葉杖《まつばつえ》にすがつた、淋《さび》しい乙女《おとめ》であつた彼女《かれ》あはれな妻《つま》である彼女《かれ》よりも、知《し》らないのであつたから。――けれども、それが彼女《かれ》には、なんとなく、情《なさ》けないやうな氣《き》がするのであつた。
自分《じぶん》の夫《をつと》は、その頃《ころ》どんな樣子《やうす》をしてゐたらう。もしもその時《とき》から二人《ふたり》が知《し》り合《あひ》になつてゐたならば、どうなつたらう。やはり夫婦《ふうふ》になつたであらうか。それとも、かつて知《し》つてた人《ひと》として思出《おもひだ》すこともなくお互《たがひ》に忘《わすれ》られてゐたかもしれない。そして、またもしも電車《でんしや》で、お互《たがひ》に東京《とうきやう》に來《き》てゐたならば、顏《かほ》を合《あは》せるやうなこともあるかもしれない。
まち子《こ》は、そんなことをよく考《かんが》へることがある。考《かんが》へれば考《かんが》へるほど、二人《ふたり》が夫婦《ふうふ》になつてゐるといふ事《こと》も、不思議《ふしぎ》で
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